廃仏の時代に




 それは、廃仏の時代のことです。
我こそが正しいと、声高々に叫ぶ教えが辺り一帯に広まってしまい、偶像でありいけない物とされた数多くの仏像たちが壊され、木製のものは燃やされ、石でできたものは砕かれ道路の基礎にされ、金属のものは非道な事に砲弾にされたりしたのです。
命の大切さを訴え続けた仏像たちが、一転して人の命を奪う物にされてしまったのです。
それは、以前にこの国で行われた廃仏より徹底的に行われました。
 一部の人たちだけ自分たちの信じる存在の時代が来たと、みんなの苦悩を知らず、喜んでいました。
 そんな時代、鉄鋼場の資材置き場に一体の仏像が横たわっていました。
近々、その仏像も一瞬で山河を破壊し毒を撒き散らす最新科学による砲弾にされてしまうのでしょう。その笑みの顔には、悲しみの色が浮かんでいました。
ですが、その仏像は、私がこの仕事に罪悪を覚えているからでしょうか、私に語りかけてきました。
今、幸せなのか。そう聞いてきたのです。
私は、いいえと答えました。

「我らが亡くなっていくのを悲しむのかい」そう聞き返します。
「はい」
自分たちの正義を主張するあの独善的な者は今いません。ここには仏像を守りたかった者たちばかりいるのですから、私は正直に答えました。
「とても悲しい」と。普段の私なら決して言わない事を。何をされるかわからないために。
「でも悲しむ事はない。我々もあなた方も、因果により流転するだけだ。我々が砲弾となって、山河を破壊するのはとても悲しい。だが……、それはただ破壊するだけの砲弾ではないのだ」
一呼吸置き仏像の言葉が続く。
「我々が作ってしまった苦界を……我々が救う。そこで土に埋まり崇められず触れも見れもしない、仏となろう。そこで砲弾という仏になろう。
 あなたたちが地獄に行くとしても、我々が受け止める。悲しむ事はない。共にいるのだから」
 私は、横たわる手を合わせたままの仏像へ、手を合わせ礼をしました。


 あくる日、私はあの仏像を溶鉱炉へ投げ込む事になりました。
たくさんの汚い鉄クズと共に。
私は投げ込みました。
 下は、赤い血の池のような地獄です。そこに私は投げ込んでしまったのです。仏を地獄へ落したのです。
あの、前日私と話をした仏像と、その他多くの仏像を私は地獄へ落としました。
 ですが、仏像たちは私に笑みを向け、私と万物へ向かってこのように言ったのです。
「グッドラック」

 私も心の中で、同じ言葉を呟きました。
いつの日か、地獄で会えるのを望みながら、私は呟きました。



 敵にされた国の山河へ、あの仏像たちが溶け込んだ砲弾が次々に使われ、何千人と死んだ上もう人が住めなくなりました。
もう、めちゃめちゃにされたのです。こうして一部の者たちだけが喜びました。
この世に地獄を出現させて、喜んだのです。また、自分たちの教えが広まるから。

 ただ、砲弾の打ち込まれた一帯は、思いの外砲弾からの毒の流出も無く、生き物の復活も早かったという話でした。
私は、仏像たちが仏の姿を取れた縁により得る事のできた力によって、毒も出ず魂が救われ、このような結果になったのだと思っております。


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